交通事故損害賠償の実務では、「後遺障害」という言葉が使われることがあります。
「後遺障害」とは、交通事故によるケガを治療してもなお障害が残ってしまったものです。
それでは、この「後遺障害」は、「後遺症」とは違うものなのでしょうか。
「後遺症」のうち後遺障害等級に該当するものだけを「後遺障害」と言う呼び方もあります。
この呼び方によると、「後遺症」と「後遺障害」の関係は図の通りとなります。
つまり、「後遺症」であっても「後遺障害」に該当しない場合があり、その意味で「後遺症」と「後遺障害」は異なる、ということになります。
……実はこの呼び方は、自動車保険や自賠責保険の実務で使われているものです。
しかし、当事務所はこの呼び方には賛成いたしかねます。
この呼び方は、そもそも法令の規定の文言と整合しません。
また、あたかも後遺障害等級に該当しなければ後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料の賠償が一切認められないかのような誤解を被害者に生じさせるおそれがあります。
何より、被害者の心情を無視しています。
障害の存在を体感し苦しんでいる被害者に向かって「それは後遺障害ではありません。」と言える神経が、わたくしには到底理解できません。
「後遺障害はあるけれど、国が定める等級には該当しなかった。」とお伝えするほうが、まだ良いと思うのです。
したがって、次の通り考えるべきです。
①「後遺障害」には、「後遺障害等級に該当するもの」と「後遺障害等級に該当しないもの」がある。
②「後遺障害等級」に該当しなくても「後遺障害」には該当するものがある。
③「後遺障害」と「後遺症」は、ほぼ同じ意味である。